本や新聞記事などを読んでいるとき、文面で漢字ではなく、わざわざ「ひらがな」で書いてあるのに気づくことってありませんか?
そのとき、すぐにググったりして調べるかたもいるでしょうし、気にならないというかたも多いでしょう。
親しい人と手紙を交わす程度であれば、特に気にする必要はないのかもしれません。
ただ、これが仕事ともなると…
「この人は仕事も大雑把なのかな?」
「繊細な業務には向いてなさそうだな」
などというマイナスイメージを相手に与えてしまったり、場合によっては相手から見下されてしまう要因にもなりかねません。
日本語の文面において、漢字とひらがなの使い分けはとても大切な要素です。
今日は、これまでに調べてメモしてきた「間違えやすい漢字とひらがなの使い分け」について、記事に書き留めてみようと思います。
「…いたします」と「…致します」
早速ですが、よく目にする文末の「~致します」という表現。
×…のちほどご連絡致します。
上の例文では、「お願い」や「ご連絡」に連なる”補助動詞”としての使い方なので、ひらがなが適切です。
○…のちほどご連絡いたします。
では、漢字の「致します」はどのような場面で用いればよいのでしょうか?
○…あちらから音が致します。
漢字の「致す」は「する」という”動詞”の丁寧語や謙譲語ですから、上のような場面に用います。
「…ください」と「…下さい」
×…ご覧下さい。
よく見かけますが、これもまちがい。
理由は先ほどの「致します」とまったく同じで、”補助動詞”だからです。
○…ご覧ください。
ちなみに「下さい」と漢字で表現する場合は、”動詞”として用いることが前提です。
「まいる」と「参る」
明確な情報が見つからなかったので「△」にしましたが、「~いたします」や「~ください」と同様、”補助動詞”としての役割なので、これは正しくないと推定されます。
「参る」という漢字は、もともと「行く」や「来る」という”動詞”の謙譲語ですから、自分の動作をへりくだって表現するときに用いるのが正しいでしょう。
ちなみに「参る」は、相手の動作の尊敬語として用いることはできません。
この場合は「いらっしゃる」「お越しになる」というのが正しい表現です。
「よろしく」と「宜しく」
よく使う文面ですが、「宜しく」に「よろしく」という読みは、そもそも常用漢字表には存在しません。
「できる」と「出来る」
×…出来るかぎり努力します。
”動詞”や”副詞”として用いる場合はひらがなで表記すべきだと、常用漢字表にはっきりと書かれてあります。
○…できるかぎり努力します。
「出来る」ではなく、「出来」のように”名詞”ならば、漢字のほうが適切です。
○…出来高払い
「いただく」と「頂く」
×…使わせて頂きます。
この場合は”補助動詞”の尊敬語としての使い方なので、ひらがなが正しい表現といえます。
○…使わせていただきます。
これもやはり、「食べる」「飲む」「もらう」という”動詞”の謙譲語として用いる場合のみ、漢字で表記します。
○…お手紙を頂きありがとうございます。
この場合、よりていねいな「頂戴する」という表現に置き換えられるかどうかで判断するとよいでしょう。
「とおり」と「通り」
△…結果は予想通りでした。
常用漢字表によると、漢字を用いるのはまちがいではないが、ひらがな推奨ということのようです。
漢字が連なる文章は読みづらいというのも、ひらがなが多く用いられる理由のひとつでしょう。
○…結果は予想どおりでした。
「とき」と「時(とき)」
こちらは明確な使い分けがあるので、まずは例文で。
▸なにかあったときには連絡をください。
▸いざというときの備えは必要です。
▸落とし物を見つけたときは警察に届けましょう。
「場合」に置き換えられれば、ひらがなの「とき」。
▸それを判断するのは時と場合によります。
▸今こそ決断の時です。
▸いずれ時が解決してくれるでしょう。
▸今は梅雨時です。
「時間」「時刻」「時期」「好機」などに置き換えられれば、漢字の「時」。
「こと」と「事」
▸勝手なことをしてはいけません。
▸見たことがあります。
▸驚くべきことだ。
▸事の重大さを知る。
▸争い事に巻き込まれる。
▸事を構える。
「もつ」と「持つ」
▸自信をもつ ▸希望をもつ
▸関心をもつ ▸自覚をもつ
▸責任をもつ ▸考えをもつ
▸体力がもつかどうか分かりません。
▸彼の肩をもつ人が多い。
(※こちらは漢字を用いるのが完全にまちがいであるとはいえないようです。)
▸荷物を手に持っている。
▸その本は私も持っている。
▸資格を持っている。
「言う」や「来る」などの間違った表現
×…***と言う場合
これは明らかな間違いなので2つまとめました。
「買ってくる」がひとつの言葉であり、「買って」から「来る」という意味とはニュアンスが異なります。
「いう」の場合は「言葉を発する」という意味ではないので、これも漢字はNG。
どちらもひらがなが正解です。
○…***という場合
いずれも漢字を用いるのは、本来の”動詞”としての役割のときのみです。
「方(ほう)」や「行う(おこなう)」の使い分け
△…行ってみます。
前後の文脈にもよりますが、「方」は「ほう」と「かた」、「行って」は「おこなって」と「いって」の2とおりの読み方ができます。
明確な使い分けについては不明ですが、相手を迷わせたり誤解を招いたりするような表現は避けるべきでしょう。
○…おこなってみます。
ちなみに、「西の方へ進む」など、”方角”や”方向”を指す場合は漢字です。
番外:「ご自愛ください」
番外編ですが、よく見かける間違いです。
「自愛」=「自分の体を大切にする」という意味ですから、上の文は「体(身体)」の意味が被ってしまっています。
「お身体」ということばを使わず、「ご自愛」のひと言で表現するのが適切です。
「供」や「達」
常用漢字表とは異なるが、間違いと分かっててあえてそのまま用いるという場合もあります。(業種による)
下の例には歴史があり、常用漢字表のなかの記載が時代に則した形に書き換えられた経緯があります。
▸友達…○ >> 友だち…△
▸子供たち・子ども達・子どもたち…適宜 >> 子供達…×
▸私たち…○ >> 私達…△
「供」は「お供え物」を連想させる、「達」にはそもそも「たち」という読みは存在しない、などの理由で、過去の常用漢字表には「子ども」「友だち」とされてきたものの、時代とともに表現が変わってきたと何かの記事で読んだことがあります。
さらに「こども」に至っては、常用漢字表の記述においても「子供」→「子ども」→「子供」と、戦前から戦後にわたり表記の基準が右へ左へ…。
ちなみに、私と同業種(教育関係)の文書には、いまだに「子ども」「友だち」という表現が用いられる場合が多いですが、それはひらがなの字体のほうが柔らかい印象を与えるという理由にほかなりません。
塾講師であるわたし自身も、「子供」「友達」という漢字にはいまだに違和感があるので、今でもあえて「子ども」「友だち」という表現を使っています。
これについては正直、常用漢字表もひらがなに戻してくれることを願ってます。
それにしても「こどもの日」という祝日だけは、なぜかひらがななんですよね。なぜなんでしょう?
さいごに…
「使い分けに迷ったら漢字よりもひらがなを使う」というのが、ビジネスマンにとっての常識であると聞いたことがありますが、私もまさにそのとおりだと思います。
要は、漢字をまちがって使うことは多いが、ひらがなで表現してまちがいであるという場面は極端に少ないということです。
「漢字に疎い人ほど、漢字を多用する傾向にある」というのもおそらく理由のひとつでしょうし、文面にはその人の教養が反映されます。
この記事の文面からお察しいただけるでしょうが、私は文章を書くのがもともと得意ではありません。
ただ最近になって感じるのは、「得意」「不得意」はたいして重要ではないということ。
常に文章を読む人の側に立ち、「どうすれば自分の言いたいことを相手にうまく伝えられるか」。
そのことを、誠心誠意をもって考えることが、文章を書く上でもっとも大切なのではないでしょうか?